社会的背景

Social background

 

なぜ今、働き方改革なのか? ~3つの社会的背景~

昨今「働き方改革」が社会的に大きなテーマとして取り上げられるようになりました。ここでは「なぜ今 働き方改革なのか?」について3つの社会的背景から説明します。

 

1.超高齢化社会の到来 ~労働力不足と働き方の多様化

【少子高齢多様化】急速に進む少子高齢化の波は経済だけでなく社会や個人の価値観に大きな影響を与えてきています。
「企業も個人も、これまでの働き方を変えなければ成立しない」そんな時代がやってきました。

a. 生産年齢人口の急速な減少。対応するためには何が必要か?

急激な少子高齢化により生産年齢人口(15歳~65歳)は減少し続けています。広島県でも今後30年で、生産年齢人口が約30%(約51万人)も減少することが予想されています。こうした「働く人よりも支えられる人が多くなり、経済成長にマイナスの負荷(onus)がかかる状態」を人口オーナスと呼びます。日本は1990年代後半から、世界的に例を見ないスピードで人口オーナスに突入しており、このままでは深刻な人手不足になることは避けられません。従業員一人ひとりの生産性向上を目指し、現在の“労働のあり方”を「量・質・タイミング」といった様々な観点から抜本的に見直す必要に迫られているのです。

  • 女性、高齢者、非正規、障がいのある方等の多様な人材が活躍すること(人材の量の確保
  • 一人ひとりが能力を高め、少数精鋭で業務に対応できるようになること(人材の質の向上
  • 短時間労働やテレワーク、副業等に応じた新たなマネジメント構築(WLBマネジメント実現

少子高齢多様化

わが国では、世界的に類を見ない速さで少子高齢化が進み、経済・社会・個人の活動に大きな影響を与えている

b. 人材が多様化する一方で総労働投入量は減少

今後も女性や高齢者等の労働参加率は上昇し続け、人材の多様化はますます進むでしょう。しかしそういった方々の多くが短時間勤務で働くことにより、全体の総労働時間(総労働投入量)はいずれ減少に転じる見通しです。「より少ない時間で、より効率よく働く」ことが重要で、生産性の向上やイノベーションによる飛躍を地域全体で実現しなければ、経済規模の縮小は避けられず、個人が豊かな生活を享受することはますます困難になります。

c. 「働き方」もまた多様化する

女性や高齢者等、働く人が多様化すれば「働き方」も多様化します。(例:育児や介護との両立、テレワーク、副業・兼業等)
従来の価値観にこだわって多様な働き方に対応できない組織は、いずれ市場からの退場を余儀なくされるかも知れません。

働き方の「アタリマエ」が変わる

より少ない時間で、より効率よく。「いつでも・誰でも・どこででも」働ける時代へ。備えは万全ですか?

予想される将来の働き手不足(広島県内 労働人口の減少)
このままでは今後約30年間で県内の生産年齢人口が約30%(約51万人)減少する見込み

広島県 働き方改革 取組マニュアル・事例集 【第1章】なぜ今,働き方改革が必要なのか P.4

2.加速度的な技術革新 ~変化し多様化するニーズと価値観

【急速な技術革新とグローバル化】テクノロジーの発展やグローバル化は、様々なビジネス上の垣根を取り払い、新たなサービスや商品を次々と生み出しています。加速度的な技術革新は、個人を重労働から解放し人手不足解消の切り札になると同時に「20年後には、現在の仕事の8割が無くなる」と言われるほどに、私たち一人ひとりの働き方に大きな変化を引き起こす要因にもなっています。

a. 新規技術の融合による第4次産業革命の波

近年ICTを中心に急速な技術革新が進み、様々な分野で「技術の新陳代謝」が起きています。
・IoT(Internet of things:多様な製品のネットワーク化)
・ビッグデータ
・ロボット技術
・人工知能(AI)
こうした様々な技術融合による新たな価値創造の動きは「第4次産業革命」とも呼ばれ、社会経済の仕組みを抜本的に変える“Game changer”として、日本のみならず世界各国で積極的な取組が始まっています。

第1次産業革命

18世紀の工業革命。
「蒸気」という新しい動力を得て、生産・運搬の機械化が実現された。

第2次産業革命

20世紀前半の「石油と電気」によるエネルギー革命。
重工業化・大量生産の始まり。

第3次産業革命

20世紀後半のIT革命。
ICTや産業ロボットによる「自動生産」が加速し、個別業務の自動化・省人化(個別最適化)が進んだ。

第4次産業革命

2010年代以降のDX(デジタルトランスフォーメーション)。
ロボット工学や AI, IoT, 生物工学など多岐に渡る技術革新の融合により、業務全体の自動化・無人化がますます加速(自動生産から自律生産へ)。企業や業界の枠組みを超えた「全体最適化」が進む。

加速するイノベーション

テクノロジーの急速な進歩は、様々な垣根を取り払い、新たなサービスと価値観を生み出し続けている

新規技術の融合
 AI, IoT, ビッグデータ, ロボット, 3Dプリンタ, ナノテク..
ビジネスモデルの変化
 オープンイノベーション, スマートファクトリー, ブロックチェーン, C2C..
新しいサービスの登場
 モノ作りからコト作りへ, 自動運転, MaaS, RPA, ..
市場ニーズと価値観の変化
 所有よりシェアや体験, ニーズのパーソナル化, 市場拡大と成熟..

b. ビジネスモデルの変化と新しいサービスの登場

技術革新による変化は、単にものづくりの効率化にとどまりません。

  • 製品(モノ)から顧客価値(コト)へのビジネスモデルの変化(モノのサービス化)
  • リクエストに応じて即座に生産提供(オンデマンド化)
  • 個別ニーズに対応した生産ライン(マスカスタマイゼーション)
  • 所有から体験・共有へのシフト(シェアリングエコノミー)
  • ビッグデータを用いた医療の個別サービス化

こうした従来では不可能であった高度できめ細かなサービスが次々と実現することで、製造業、流通、公共サービス、小売、金融、医療、介護、教育などあらゆる分野に変化が及びます

c. 働き方の未来はどう変わるだろうか

スマートフォンの登場によって様変わりした携帯電話業界のように、世界的な技術革新の波からは誰も逃れられません。破壊的イノベーションの登場による産業構造や仕事の質的変化は、企業ならびに個々のビジネスパーソンに、既存の働き方の延長線ではない新しい働き方を求めるでしょう。
そして働き方の変化に伴い、求められるスキルやコミュニケーションのあり方も変化し続けます。「変化しないリスク(現状維持)」が、「変化するリスク(チャレンジ)」を大きく上回る未来は既に到来しているのです。

変わらないリスク > 変わるリスク

変化し続けるビジネス環境に、取り残されていませんか?

能力開発費の割合の国際比較
我が国のGDPに占める企業の能力開発費の割合は、米国・フランス・ドイツ・イタリア・英国と比較し、突出して低い水準にある

厚生労働省 平成30年版 労働経済の分析 ~GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較について(P.89)

GDP に占める企業の能力開発費の割合が、国際的にみて突出して低い水準にとどまっており、経年的にも低下が続いていることを踏まえると、我が国の労働者の人的資本が十分に蓄積されず、ひいては長期的にみて労働生産性の向上を阻害する要因となる懸念がある。

3.成長社会から成熟社会へ ~社会・企業・個人の「あり方」の変化

【社会通念の変化】高度経済成長期より企業活動が優先され続けた結果、日本の社会全体に様々な歪み(課題)が根付いていると言われています。成長社会から成熟社会へと変化する中、これまで見過ごされてきた「社会の歪み」の問題が表面化してきています。

a. 高度経済成長時代の社会通念

高度経済成長期の日本を支えた雇用の特徴は終身雇用と年功序列でした。「労働=時間の提供」という考え方が定着し、社会通念として休まず長時間働くことが美徳とされてきました。
「男性は仕事、女性は家庭」という考え方が広く浸透し、「会社人間」と呼ばれるような生活時間のすべてを仕事に注ぎ込む働き方が当然のように行われていた時代です。経営者の「従業員は家族」という言葉の裏には、無理や甘えの効く“身内”として、株主や顧客といった重要なステークホルダーに劣る存在という考え方も含まれていました。

「お客様のためには、“身内(従業員)”に多少の無理を強いてもやむを得ない」

コンプライアンスの重視

現代社会は、成長期から成熟期へと移行し、これまで顧みられることの無かった様々な「社会のゆがみ」が表面化

b. 「成長社会から成熟社会へ」社会通念の変化

しかし近年では、終身雇用や年功序列が崩れ、仕事中心の「会社人間」とは別の価値観を持つ人が増えてきています。共働き世帯が増加し、会社に「出張転勤フルタイム対応OK」と言える人材はますます減少しています。働く人の、会社に対する期待は多様化し、かつてのように「お金とポスト」だけを求めるのではなく「仕事と生活の両立(ワークライフバランス)」や「働きがいと成長実感」等を重視する人も非常に増えてきました。

「仕事が人生」から「人生の一部が仕事」へと価値観が大きく変化

「会社に自分を合わせる」よりも「自分に合った会社を選ぶ」人が増加

c. 問われる「組織と働く個人のあるべき姿」

こうした社会通念の変化(成熟)に伴い、以前であれば “身内の問題”として陰に埋もれていた「慢性的な長時間労働」「ハラスメント問題」「過労死」「メンタルヘルス」「企業内不祥事」といった問題が、社会的にも大きな注目を集めるようになりました。ネットを通じた情報発信も拡大し、様々な不正が問題視されるようになった今、かつてのような働き方や働かせ方を続けることは、組織にとっても働く個人にとっても、大きなリスクと言えるでしょう。
いよいよ2020年4月からは「残業上限規制」が中小企業にも適用されます。「働き方」に対する法整備も次第に整いつつある今、単に「違法になるから改善する」のではなく、私たち一人ひとりが「組織と働く個人のあるべき姿」について積極的に議論を重ね、真摯な改善に取り組むべき時期を迎えています。

かつての常識は、今や非常識?!

あなたは、こうした社会の変化に、どのように向き合いますか?